トヨタホームで新居を建てた名古屋市緑区有松の観光スポットを、引っ越して早々地元民を名乗るのもおこがましいですが、地元民ならではの視線で散策します。
名古屋鉄道 名古屋本線「有松駅」(自宅から徒歩7分)
名古屋市は、魅力的な都市ランキング(2017年)で第21位(/計1000市町村+47都道府県)です。
そしてその名古屋市内で金のシャチホコで有名な名古屋城に次ぐ観光地が、古い街並みの一部が重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)に指定されている有松です。
都市ランキング1位の京都市や2位函館市以下、鎌倉市、神戸市、…錚々たる観光地が上位に並ぶなか、19位別府市、20位登別市という温泉街に次いでの名古屋市21位入賞に一役買っている程度には見応えのある有松の街並みは一見の価値があります。
ちなみに重要伝統的建造物群保存地区とは、他にも旧東海道の町並みでは三重県亀山市関宿が指定されているように(東海地区では他にも岐阜県白川村荻町の山村集落が有名)、基本的には都市開発を免れた古い建造物が指定されるため、重伝建は田舎である場合が多く、大都市では異例の指定です。
出典:
地域ブランド調査(第12回2017年 ブランド総合研究所)
http://tiiki.jp/news/05_research/survey2017
文化庁 重要伝統的建造物群保存地区一覧
http://www.bunka.go.jp/index.html
名古屋鉄道㈱名古屋本線「有松駅」は、その重要伝統的建造物群保存地区有松の玄関口です。
「重要伝統的建造物群保存地区」とは市町村が決定した「伝統的建造物群保存地区」のうち、文化財保護法第144条の規定に基づき、特に価値が高いものとして国(文部科学大臣)が選定したものです。
この制度は、文化財として建造物を「単体」ではなく「群」で保存しようとするもので、保存地区内では建築物はもちろん、門・土塀・石垣・燈籠…などの工作物、庭園・生垣・樹木…などの環境物件を特定し保存措置を図ることとされています。そのため地区内の歴史的風致に関わる建造物の外観・外構の増改築に制約が掛かります。反面、制約がかかる部分の修理には8割前後の市町村補助(その5割以上を国が負担)が有りますし、相続税と固定資産税に一定の優遇措置がとられています。
また、、保存地区に隣接する名鉄有松駅の駅舎もですが、近隣のビルやイオンタウン有松の屋根が切妻屋根になってます。駅舎はともかく駅ビルやスーパーでは比較的珍しいのかなと思います。
江戸時代の文芸作品の中の有松(鳴海)
江戸時代、西洋絵画にも多大な影響を与えた浮世絵の傑作「東海道五十三次」(歌川広重=安藤広重作)にも「東海道五十三次・鳴海」の絵では「保永堂版」でも「行書版」でも「隷書版(丸清版)」のどの構図でも「有松絞り」の店が描かれています。
当時「有松絞り」は主に正式宿場町鳴海で販売されていたため「鳴海絞り」と呼ばれていた事や、鳴海にも戦後まで有松絞りと本家争いをしていた「鳴海絞り」というブランドがあったため、テーマがあくまで鳴海宿の浮世絵「東海道五十三次・鳴海」が有松宿か鳴海宿のどちらを絵描いたかは微妙です。
しかし、そんな状況であえて絵の副題が、「保永堂版」は「名物有松絞り」、「行書版」は「名物有松絞り店」、「隷書版」では「名物絞り店」とあえて題されている上、実際残存する有松の染織町と浮世絵が全く同じ景色ですのでおそらく東海道五十三次に数えられる本陣が在るなどの正式な宿場町ではありませんが、有松宿が描かれたんだろうなと思います。
また有松は江戸時代の滑稽本「東海道中膝栗毛(四篇 下)」(十返舎一九作)でも描かれています。主人公の弥次さん・喜多さんが将棋中で会話が上の空な店の主人と有松絞りの値段について高いの安いのなどの滑稽なやりとりの末、弥次さんが手ぬぐいを一枚分買い求める場面が登場します。
ただやはり、滑稽本に登場する男臭い二人の旅人が手拭を買う逸話よりも、葛飾北斎や歌川広重の浮世絵の中で有松絞り店舗に(ファッションに敏感な)女性が多く描かれている事の方が当時の有松の雰囲気を表しているように思います。
「有松絞り」について
「有松絞り」は、江戸時代から400年以上続く絞り染めの伝統的技術です。
これだけ蓄積されている所は、全国でも有松ただ一ヶ所です。そのため有松絞りは重要無形文化財記録保存指定や伝統的工芸品産業指定を受けています。
絞り染めは、意匠(デザイン)に合せ、糸を抜いた時に白く染料に染まらない部分を残すように糸で括って防染をして染める技法で糸の括り方で何種類もの模様をつくることができます。
有松鳴海絞は、糸を括る技法が100種類にも及び、その数は世界一だそうです。また絞り染めの工程が、昔も今も、まったくの手作業であるため全く同じものは存在しません。
また江戸時代は木綿が庶民に浸透し始めた頃で、麻から綿への転換しつつある衣服革命の真只中でした。斬新な有松絞りのデザインは、当時旅人のお洒落なお土産として爆発的な人気だったため、郷里への土産にと絞りの手拭、浴衣などは東海道一の名産品になりました。
今でも有松は伝統工芸品「有松絞り」の観光名所ですが、江戸時代当時の有松は多くのファッションブランドが軒を連ねデザインを競って有松系ならぬファッション産業の最先端都市として、それだけ賑やかだったんだろうと思います。
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